02 東京カテドラル聖マリア大聖堂

東京カテドラル聖マリア大聖堂

聖マリア大聖堂南西面

東京都文京区、目白通りに面して、フォーシーズンズホテルの向かい側に東京カテドラルがあります。周囲は早稲田大学、御茶ノ水女子大や日本女子大、筑波大付属高・中、東京音大付属高、その他教育施設がたくさんある"文教"地区です。

この写真をみて何だかお分かりですか?これが大聖堂で、敷地の入り口に立って南西側から見たところなのですが、一般的な教会のイメージと随分違いますよね。スケールが大きいのと、形状が複雑なので、写真だけでは全体像が伝わらないのですが、文章でどれだけお伝えできるでしょうか・・・?

東京カテドラルとは

日本のカトリック教には16の地域区分(教区)があり、各教区は司教または大司教が長を務めます。カテドラ(司教座)がある教会をカテドラル(司教座聖堂)と呼ぶそうです。東京カテドラルは、東京教区の大司教が公に儀式を司式し、教え指導する教会で、教区の母教会といえるものだそうです。(カトリックの詳細については東京カテドラルやカトリック東京のホームページをご参照ください。)

現在の教会は、第2次大戦中に戦災で焼失した教会を復興する際、指名競技設計を行い、1962年に丹下健三氏の案が採用され、建設されたものです。

建築概要

聖堂聖堂西より

聖堂聖堂北西より

聖堂聖堂北北西より

1963年4月着工、1964年12月竣工です。敷地面積15,098平方メートルの中に、竣工当初は聖堂、聖具室棟、鐘塔、ルルド(ルルドが何であるかは、教会のホームページをご覧ください)、既存の大司教館事務室がありました。現在は、竣工時にすでに建設予定だった、カトリックセンター(竣工時の計画図にほぼ近い)と関口会館(竣工時の計画よりかなり大きい。建て替えられたのでしょうか。)に加えて、大阪聖ヨセフ宣教修道女会の建物、司祭の家、竣工当時より敷地が拡張されたらしき部分に東京教区研修所が建っています。

聖マリア大聖堂はRC造地下1階地上3階建、特徴のある屋根はHPシェル構造で壁から屋根まで一体となっています。HPシェルが8枚立てかけられ、真上から見ると、HPシェルとシェルの間が十字型のトップライトになっています。側面のシェルとシェルの間もスリットを設けて、ガラスがはめ込まれています。内部空間の一番高いところは、高さ40m近くにもなります。外壁・屋根はステンレス鋼板仕上げです。

HPシェルとは、Hyperbolic Paraboloid(双曲放物面)でできたシェル構造です。双曲放物面って遠い昔に学校で聞いた気がするのですが、2本の捩じれ2直線を定平面(これら2直線とほぼ直交)に平行な直線群で結んで得た曲面で(そういえば子どもの頃、画用紙に平行でない本の直線を描いてそれを等分し、反対側の端から順に結んだ絵が立体的に見えて面白がっていろいろ描いて遊んでました。これですね~。)、ある面で切断すれば放物線が、それに直行する面で切断すれば、双曲線が現れる曲面です。直線でできているので施工もしやすいのだろうと思います。

このページ一番上の写真が敷地に入ってすぐ、聖堂南西側からの写真で、その後、聖堂入り口側に移動して写した写真を並べます。(右の写真 上から、聖堂西側、北西、北北西)。

平面が十字型になっているのがお分かりでしょうか?柔らかいふくらみを持った壁面が垂直に立ち上がっていって屋根になり上部がトップライトになっているのが見えますでしょうか?

鐘塔と聖堂の関係が分かりづらい写真で申し訳ないですが、写真の右端にちらっと移っているのが鐘塔です。

設計趣旨

カテドラルの設計にあたり考慮した点として、「第1に長い歴史を持つカトリック教会建築の伝統を、現代の精神の中で、現代の技術を持って、どう発展させていくかということ」「第2には、ヨーロッパにおいて発展してきたそれを、日本にどう定着させていくかということ」(注1)の2つを挙げられています。その前提に立ち、設計主旨として3つのことを、新建築1965年5月号で述べられているので、簡潔にお伝えします。

1)ヨーロッパの教会はコミュニティの中心、周囲より際立って高く垂直の表象を持つ、それでいて周辺との調和が取れている → 東京カテドラルではHPシェルの組み合わせを垂直に架構して垂直性でカトリックの精神を表す。またHPシェルのふくらみのある勾配で伝統ある日本の勾配屋根の家並みとの調和をもたらす。

2)ヨーロッパの都市に建つ教会では人々は道路から広場そして教会へとアプローチする中で視界が展開し、それにともなって精神を高揚させ教会へと導かれる。 → このカテドラルでは道路から小広場へはいり、まず視野いっぱいに聖堂壁面に接し、左手に鐘塔をみて聖堂との間を進み、広場へ、さらに右側に迂回して聖堂へというアプローチを考慮し、外界からの心理的移行と、外周民家から教会のスケールにいたるスケールの序列を考慮している。

3)教会内部は精神の一つの小宇宙で、中世ヨーロッパの人々は、その時代の最高の構造技術を駆使して、こうした小宇宙を実現しようとした。 → このカテドラルでは現代のコンクリート技術を最大限に駆使し、人間的尺度を離れた、神学的かつ上昇感を持たせた空間を、カトリック教会の伝統に従った十字型のプランに天井面と垂直面のスリットからの光で豊かさを、ふくらみを持つHPシェルで人々をつつみこむ感情と神秘さをあらわそうとした。

外部空間

敷地入り口方向から鐘塔をみる

さて、説明が長くなりましたが、以上のような予備知識をもって実際に訪れてみますと、確かに巨大な建物であるにもかかわらず、目白通りから奥まって建っていて、周辺地域のランドマークでありながら、前面に出て存在を主張しているのではありません。迂回させるアプローチも、ヨーロッパの広い広場が、この狭い敷地では取れないために工夫したのが分かります。狭い日本では昔から迂回したアプローチを設けて、進むにつれて変化する景色が連続し、目的地に向かって気持ちを高揚させる手法がありますが、それも考慮されたのだと思います。

しかし、事前に配置図をみて想像していたほど高揚感が得られなかったのです。というのは、まず、竣工当時に大聖堂入り口前に作られていた芝生広場が駐車場に変えられていたこと、当初の芝生広場を1/3ほども削って司祭の家が建てられていたこと、また関口会館も竣工当初の計画より大きくなっていて、長手方向はやはり広場を削っていたこと、短手方向はひろがって大聖堂に接近し、大聖堂の独立性が弱まっていること、そしてなんと言ってもあちこちに停められていた多くの車です。駐車場の確保などは種々の事情があって止むを得なかったと思いますが少し残念でした。この様子だと、大勢の人が車で訪れると駐車場の中に大聖堂が建っているように見えるのではないでしょうか。(右の写真 入り口方向から鐘塔を見る。右側が大聖堂。その間を通って大聖堂入り口にアプローチする)

聖堂正面ステージ

大聖堂前は階段7段分(1.1mほど)高いステージになっていて、外界と違う空間への緩衝区域のようになっています。大聖堂の正面のガラススリットを舞台背景としたステージとして、集会などが催されるのでしょう。

祈りの空間

大聖堂正面ステージ

いよいよ中に入りましょう。大聖堂の入り口は、上から見た十字架プランで一番長い辺の、先端スリットの両側にあります。先端スリットにも出入り口がありますが、普段使っていないようです。
(右の写真 大聖堂入り口 写真が暗くてすみません。今回も曇天でした。)

設計主旨にもありますように、中世ヨーロッパの教会を意識して計画されているようですが、平面的構成も中世ヨーロッパ教会に共通する部分があります。中世ヨーロッパ教会の説明は、簡単に済まされるものではないのですが、少しだけご紹介しますと、平面は十字型をしていて、十字の一番長い辺にあたる部分が、礼拝する人々が座る椅子が並んでいるところです。そこは列柱によって3つ又は5つの部分に分かれ、中央が身廊、両側が側廊とよばれます。十字の上部の短辺に祭壇があります。十字の交差部分の屋根は、交差ボールトやドームがのっていて、トップライトがあります。東京カテドラルも、平面は十字ではありませんが、壁が立ち上がって上に行くほど間が狭くなり、十字型のトップライトになっています。平面も、中央の身廊と両側の側廊に分かれていて、それぞれにエントランスがついています。

祭壇

丹下氏は、教会の空間をつくるにあたって次のように述べられています。「私たちはこの場合、空間の型を伝統的なカテドラル建築に見られる空間の型から学んだ」「それは(中略)カトリック的空間の形而上性がそうした型において典型的に表現されると見たからであった」

選んだ型として「垂直的表象を持った」「奥行き方向に進むにしたがって広がりが感じられるような」「空間の全貌を捕らえることのできない神秘性を持った」空間をあげられています。(かぎ括弧内は全て注1

非常に厳粛なお式で、写真の撮影が限定されていましたので部分的な写真しかありませんが、例え自由に撮影できたとしても、設計者の狙い通り、空間全部を一つの写真に収めることができないでしょう。全貌を見ることができないというのは、逆に、無限の広がりを感じさせることにつながります。これは中世ヨーロッパ的というよりむしろ、日本の伝統的な空間のつくりかたではないでしょうか。

右の写真は、ベンチに座って、祭壇方向を見たものです。祭壇の背後の垂直スリットから差し込む光が象徴的ですね。

側面のスリット

席に座って側面のスリット方向を見た写真です。HPシェルの壁面が膨らみながら立ち上がっています。

トップライト

真上を見上げた写真で、十字の長辺にあたる部分のトップライトです。HPシェルの壁が垂直に立ち上がって屋根になっています。

「1回に4mの高さ迄コンクリートが打たれていく。したがってコンクリートの打設面は水平リブの上端に一段おきに出ることになる。大聖堂内部はコンクリート打放し仕上げのためにコンクリート打には特に注意した」(注1)と説明にありますが、コールドジョイントやジャンカが目立っていて、昭和30年代にやっとレディミクストコンクリート工場が設立されたばかりで、当時最新の技術でも大変な施工だったのでしょうか。

トップライト

後ろを見ると、十字の先端に当たる部分の上階にパイプオルガンが見えます。私の旦那はこちらのスリットからの光がパイプオルガンで遮断されているのが残念と言っていました。今なら光を通すパイプが作れたかもしれませんね。現状はオルガンに直接日光が当たって、楽器にとっては厳しい環境だと思います。

オルガンは今新しいものを製作中だそうです。東京カテドラルのホームページに新しいオルガンの製作工程などが載っていて、個人的に興味深く読みましたが、この空間の性質が変わるようなものでなければいいですね。

内部の残響は、空席時で約7秒、1500人収容で約3.5秒だそうです。式に参列していたのは100人弱だったので、神父様のお話の内容は聞き取りにくかったのですが、賛美歌を歌う女性の声は、非常に美しく響いていました。

精神性の表現

丹下氏は「カトリック教徒でない私が、この課題にたち向かうことが果たして正しいことであるのか、あるいは可能であるのか、といった疑問が、まず私を襲った。」と、しばらく手がつかなかったということですが、最終的には「私はこうした精神的象徴であるような空間についても、その創造は純粋に建築的操作に属するものであると考えるようになった。」(かぎ括弧内は全て注1)と結論付け設計に取り組まれ、設計主旨にあるように手法として、中世カトリック教会の空間の型から学んで創造されています。それはやはり、カトリック教徒でない日本人が精神性をそこから学ぼうとされたからではないでしょうか。

同じようにコンクリートでできている、ル・コルビュジェの"ロンシャンの教会"という有名な建築があります。去年私も訪問して感動しましたが、キリスト教徒でない私たちも含め、訪れる人がみな感銘を受ける、すばらしい空間です。しかし、空間は中世の教会の型から離れて自由に構成されています。これはキリスト教徒であり精神性を理解している人だから可能な設計だったのでは無いでしょうか。キリスト教徒にとっては、ただ感動するのではなく、その精神性が伝わる空間になっているのではないでしょうか。

ここでふと、日本でコンクリート打放しで教会を作られている建築家が、頭に浮かびました。そう、安藤忠雄さんです。安藤氏がどのようにこの「精神性」を建築に投影されているのか、見てみたくなりました。より日本的なのでは?という予想ですが、どうなのか、また機会を見つけて訪問してみます。

注1
「技術と人間」丹下健三+都市建築設計研究所 1955~1964(美術出版社)より引用