建築士の役割

建築や住宅を建てようと思ったとき、どこに、或いは誰に頼んだら良いのか、大工さんやハウスメーカー、設計事務所、工務店など、依頼するところは色々ありそうだけど、何が違うのか分からない事はありませんか。

小学生を教えている先生に、「生徒に、大工さんと建築士は違うの?と聞かれたんだけど」と質問されたことがあります。確かに建築士って何なのか、はっきり知られていないかもしれません。

建築士とは、国土交通大臣の行う試験に合格して免許を受ける資格です。免許を持つ人は皆、建築士ですから、実際に設計している人だけでなく、職業は様々です。大工さん、設計事務所や工務店、ゼネコンに勤める人、不動産業、先生、お役所などの公務員等々。一方、建築家という言葉には、はっきりとした定義がなく、建築士でも一般的にイメージされる建築家と呼べるかどうかはわかりませんし、優秀な建築家でも建築士の資格を持っていない方もいらっしゃいます。

ここでは実際に建築の設計に携わる、建築士の仕事の内容を紹介します。

建築士は主に設計と、工事監理を行います。
建築士には1級建築士、2級建築士、木造建築士があり、それぞれ設計・工事監理のできる建築物について、用途、面積、高さ、工法等が建築士法に定められています。


一定規模以上の建築を建てるときには必ず建築士が業務を行う必要があるのですが、建築士がどのような業務形態をとっているかは様々です。建築士事務所のように建築士が独立している場合、工務店やゼネコン、ハウスメーカー内に勤務している建築士が業務を行う場合、大工さんが建築士の資格をもっていて設計も施工も行う場合などです。

工事費の調整も、建築士の重要な業務です。それぞれの業務形態によって長所が違いますが、施工者から独立している建築士が業務を行う形態には、工事費の査定や施工のチェックを公正にできるというメリットがあります。

具体的な業務内容につきましては、「建築ができるまで」をご覧ください。

建築ができるまで

建築士に依頼してから建築ができるまでの、業務の概略をご説明します。

設計業務は大抵3段階に分けて行います。

基本設計 → 実施設計 → 工事監理

どの段階においても建築士は施主に確認を取り承諾を得て作業をすることが基本です。
設計料も、大抵は段階ごとに清算します。

基本設計

基本設計では、敷地に関する法規、地盤、水道やガス、下水等の調査を行い、住宅だと1/100位のスケールで、平面図、断面図、立面図等を作成します。どんな間取りで、どんな工法で建てるか、性能や仕様、設備等の検討をします。

性能だけでなく、その場所でどのように建てるべきか、景色をどう見せるのか、外と内をどのようにつなげるか等のコンセプトを十分検討する事が重要です。逆に、しっかりとしたコンセプトをつくり、それを実現するために性能や仕様を検討すると言ってもいいと思います。

概算見積もりを作成して予算内に収まるよう調整します。

実施設計

実施設計では、基本設計に基づき、1/50や1/30、時には1/1で図面を描いて詳細を 検討します。最も作業労力がかかります。構造や設備設計、家具設計も同時に行い、すべて納まるよう検討します。

図面が全て仕上がると、工務店に見積もりをとり、金額や内容をチェックします。

申請作業(標準業務外)

実施設計が仕上がりますと、確認申請書等の書類を作成し、役所や各機関と協議して確認済証等の交付を受けます。確認済証が交付されれば、めでたく着工です。

工事監理

工事監理では、工務店が設計図書どおりに作業しているかチェックし、また工事が始まってから出てくる問題に対処します。監理のがきちんとされるかどうかで、出来上がる建物の性能やデザインに違いが出てきます。追加工事や設計変更で追加料金が発生する場合がありますが、その場合は建築士がきちんと施主に知らせ、了承を得てから作業を進める必要があります。

工事終了後

工事が終了しましたら、工事費、設計料を清算します。契約通りであるか、追加工事の見積と齟齬がないか等しっかりチェックしましょう。この作業も建築士がお手伝いします。役所の検査にも合格してめでたく竣工、施主に引き渡されます。
その後も1年検査等、設計士が責任もって建物の面倒をみます。

業務範囲の詳細は、契約毎に取り決めますが、平成21年1月7日施行の国土交通省告示第十五号に標準業務が示されています。

設計料

設計に対する報酬は、強制力はありませんが、平成21年1月7日施行の国土交通省告示第十五号に、業務報酬基準として、実質 加算方法と略算方法が示されています。実務上よく活用されているとされる略算方法について、少しご紹介しますと、

業務報酬=直接人件費×2.0+特別経費+
     技術料等経費+消費税相当額

となっています。また直接人件費を出すための標準業務量などの設定もありますが、追加的な業務量がある場合など、実情に応じて算出する必要があります。

実際には工事費の10~12、3%としているところが多いようです。契約時にどの業務範囲を含んでいるか、確認しましょう。例えば、建築確認申請等の図書作成費、模型作成やパース作成は含むのか、設計変更する場合は費用はどうなるのか等です。

当事務所の場合、標準的な木造2階建て住宅で、設計料は工事費の10%程度、構造設計費、建築確認申請費用等は別途いただいております。
当事務所にご依頼の場合、詳細はお問合せください。

このページここまで撮影 笹の倉舎/笹倉洋平

古民家や町家の改修
(限界耐力計算による耐震補強)

古民家や町家の改修において、耐震補強が必要になることが多々あります。
従来の耐震補強は、現在一般的な木造在来工法の考え方に基づいたもので、金物、筋違、耐力壁の量を確保するという耐力重視の方法となっており、伝統的な木造軸組工法の建築物に適用すると、多くの開口部を壁にしたり、瓦をとりやめるなど、もとの建築らしさがなかなか維持できない改修になってしまいます。

それに対して、平成12年の建築基準法施行令の改正により可能になった、限界耐力計算による耐震補強が年々開発されております。これは、金物や筋違、合板などによる補強がほとんどされていない伝統的な木造軸組工法で建てられた建物が、しなやかに変形することによって耐震性能を発揮するという性質を評価した方法です。これにより、昔ながらの建築の風情を残しながら耐震改修する可能性が広がりました。

私どもでも、古民家や町家を改修し、新たなお住まいや、店舗などにされる場合に、限界耐力計算による耐震補強を行う構造設計者の方と協力して、その建築の魅力を生かした空間づくりを行っていきます。

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